医食同源 ~ある血液内科医のブログ~
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ウイルス感染が起こす血液がん
2019-07-30
『成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)』という病気をご存知ですか?
「献血をしたら,『抗HTLV-1抗体が陽性』と言われました。」と受診される方がいます。難しい名前なので知名度は低いですが,九州の方々には比較的多くみられます
HTLV-1とは『ヒトT細胞白血病ウイルス1型』の略で,抗体陽性はこのウイルスに感染していることを意味します。そして,このHTLV-1が血液のがんであるATLをひき起こすのです。
では,いつどのようにしてこのウイルスに感染するのでしょうか?
日本における感染の約8割は,乳児期の母乳からのものです。しかし,感染から発症までにかなりの時間が必要で,発症年齢の平均は60代前半です。40歳以前に発症する人は非常に稀で,献血で見つかる人のほとんどは発症前のキャリア(保有者)です。HTLV-1キャリアは日本全国に120万人いると言われていますが,ATLを発症するのはそのうち約5%程度です。また,ATLの中にはすぐに治療を必要としないタイプもあるので,専門医による診断が重要と考えます。
ATLは「九州や沖縄の風土病」と長い間考えられていました。キャリアの約50%が,これらの地域に偏って分布しているからです。そのため,全国規模での対策が遅れてしまい,妊婦健診の項目に追加されたのは2010年秋でした
母乳以外の感染経路として夫婦間などの感染もあるため,血液検査で抗体陽性と言われた人はもちろん,その家族の方も一度血液内科外来を受診することをお勧めします
安藤 健明(血液内科部長 兼 総合内科部長)